馬肉として食べられる馬はどこで生まれるの?
馬肉として食べられる馬は一体、どこからどのような道筋で私たちの元へ届いているのでしょうか。
馬肉といえば熊本というイメージが強い方も多いかもしれませんが、近年は市場に流通する馬肉の多くは海外から輸入されたものです。
輸入される馬肉にも実は生体輸入と枝肉輸入があります。
ここからは生体輸入の馬肉と枝肉輸入の馬肉についてデータを交えて詳しく解説していきます。
馬の生体輸入とは
生体輸入とは、馬が生きた状態で輸入されることです。
生体輸入の場合には、馬肉の鮮度が落ちないという大きなメリットがあります。
しかしこの生体輸入の場合には、国内で一定期間馬を肥育する必要があるため、輸入後の肥育環境が品質を左右します。
馬肉の枝肉輸入とは
枝肉輸入とは、 馬を屠殺し、馬肉を裁断した状態で冷凍し輸入することです。
一度に希望の部位のみを大量に輸入できることが大きなメリットです。
デメリットとしては、空輸となるため鮮度が落ちてしまう可能性がある点です。
どちらの輸入方法もメリットとデメリットが共存しています。
参照データ:農林水産省生産局畜産部畜産振興課「馬の改良増殖等をめぐる情勢」
食用の馬の国内肥育に関して
国内の馬の肥育頭数については馬肉として食用になる馬に限定すれば平成22年時点で10,628頭となっています。
日本国内の在来馬の頭数は年々減少傾向にあります。
それに伴い食用の馬肉は海外からの輸入割合が増加しています。
国産の馬の66%前後が北海道の北海道和種であり、その他には長野、愛媛、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄で馬の生産が行われています。
馬肉の生産量としては九州が全体と約半数を占めていますが、そのほとんどは九州生まれではなく、北海道で生まれ九州で肥育された馬です。
国内のと畜頭数は年々減少傾向にあり、市場に出回っているほとんどの馬肉が海外でと畜され枝肉輸入で国内に入ってきています。
現在、国内で肥育された馬と海外産の安価な馬が市場を二分している状態です。
近年は国内の馬肉の生産量の減少に伴う海外からの輸入依存に陥っており、徐々に輸入価格が上昇していっている傾向にあります。
このまま馬肉を海外に頼ってしまうと国内の馬肉産業が衰退し、馬肉がかなり高価で手に入りにくいものになります。
参考:農林水産省「馬をめぐる情勢」
海外での馬肉の生産について
馬肉は海外でもかなり多くの量、生産されています。
世界で主要な生産国を挙げると
- 中国
- メキシコ
- カザフスタン
- ロシア
- アメリカ
- カナダ
- オーストラリア
- アルゼンチン
- モンゴル
- ブラジル
- キルギスタン
- イタリア
- ポーランド
などがあります。
この中でも屈指の生産量を誇るのは中国で16万トンの生産量を誇ります。
これは二位のメキシコに対して二倍近くの生産量です。
しかし日本が主に馬肉の輸入対象国としているのはカナダです。
これは品質の問題で中国は肥育環境が管理されていない場所もあるため、安定して高い品質の馬肉が手に入るカナダからの輸入に最も頼っています。
平成28年のデータによるとカナダから日本が輸入した馬肉の量はなんと3020トンに上ります。
2位のメキシコは729トンなので約4倍となっています。
カナダ産の馬肉はほとんどカナダ馬肉生産大手のBouvry社が担っています。
この会社はカナダ連邦政府認定を受けており、高い品質と安定した供給が可能です。
大きな特徴として脂の乗りが魅力で世界でも最も日本国産に似ていると言えます。
国内でカナダ産の流通量が増えている理由は、この高い品質が実現できているからです。
参考:農林水産省生産局畜産部畜産振興課「馬関係資料」
馬の肥育について
馬の肥育とはつまり馬を育てることです。
基本的に熊本の馬は、海外または北海道から飛行機で運び、一定期間熊本で肥育を行います。
肥育は基本的に餌やりと体調管理、そして適度な運動そしてストレス管理などのことを指します。
馬は暑さに弱い動物であるため、熊本で肥育するときには暑さ対策のために扇風機を厩舎につけたり、出来るだけ厩舎に壁を作らない工夫などを行っている牧場が多いです。
エサやりは牧場によってブレンドが違います。
どんなブレンドにするのかは牧場長などが決めることが多いです。
馬は栄養のバランスによって体調が大きく変化する動物であり、プロが毎日直接見て体調を見極めて不足している栄養を補給するように飼料をブレンドする必要があります。
またエサを与える量にも工夫が必要です。
馬は腸が非常に長く消化に時間が掛かります。
また首が長く生物的にゲップをすることができないため、一度に大量に摂取すると消化しきれずに胃を圧迫することやガスが溜まり腹痛の原因になったりします。
このようなことが起きないため、人も与えるエサの量や時間帯を調節することが非常に重要になってきます。
そして肥育している馬のあまり食欲がない場合には適度な運動をさせることもあります。
これは馬自身が運動不足でストレス過多になり食欲が減退している可能性があるからです。
馬を育てる牧場について
実際に利他フーズの提携牧場での馬の肥育牧場は、馬が最もストレスなく過ごせるよう細部にまでこだわっております。
具体的には暑さに弱い馬のために厩舎の通気性に一工夫しております。
まず通常は壁に囲まれている場合が多い厩舎に壁を無くし風通しのいい空間を作っています。
また天井の高さも業界では異例の6メートル以上確保しております。
一頭あたり馬が5頭程度入るほど奥行きのある部屋を作っており、馬は自由に厩舎の中で動き、そして生き生きと暮らすことが出来ております。
馬はそれぞれ相性があり、どの馬を同じ部屋に入れるのにも最新の注意を払っております。
馬というのは本来臆病な動物ですが、そんな馬にも一頭一頭性格があります。
相性が悪い馬同士はできるだけ同じ空間で過ごさなくていいように配置しております。
また一定期間ごとに部屋を移動し、生活の中で適度な変化を持たせています。そのようにすることで馬はストレスが少なく済み食欲が増進します。
馬がまだ幼い場合にはまとめて厩舎に入れます。
これは馬の特性である群れ行動という習性を生かしたもので、馬の年齢によって馬が求める安心が変わることを理解し最適な環境を整備しています。
時期によっても馬が求めるものは変わります。
夏は通気性や冷感を求めますが冬はできるだけ柔らかい敷きワラを求めます。
利他フーズの提携牧場の馬たちは、飼育員への信頼が厚いため、厩舎の中で寝転ぶことがよくあります。
その時に厩舎の下に敷かれたワラの厚みが非常に重要になってきます。
冬は意識的にワラを多めに敷いて和えることで馬が楽に寝転ぶことができます。
このような小さな工夫も馬にとっては非常に大切なことです。
そして利他フーズの牧場では馬一頭一頭に語り掛けることも少なくありません。
これは馬と互いに信頼感を養い、日々馬の体調などを確認するための行動です。
馬一頭一頭の体調管理、精神状態の管理には科学的なアプローチとと非科学的なアプローチの両方を行っています。
馬にも個性があり、体調が悪くともなかなかそれを見せようとしない馬もいます。
その時にどれだけ早い段階で体調の不良に気づいてあげられるかが非常に大切になってきます。
さきほど牧場の設備の部分で触れた壁をなくして通気性をよくするという部分は遠くからでもいち早く馬の異常に気付くための施策でもあります。
利他フーズではこれらの小さな工夫を重ねて馬にとっての最善の環境を整えております。
馬の屠殺、加工について
屠殺(とさつ)について
馬の屠殺については別名「屠畜(とちく)」ともいい、主に家畜を殺すことを指します。
屠殺というのは1867年に中川嘉兵衛(なかがわ かべえ)が牛肉をと殺するために屠牛場を設立したのが始まりです。
それまでは正式な屠殺専用の施設というのは整備されていませんでした。
中川嘉兵衛がはじめて設立したあと、設立ブームが訪れ全国で約1500件以上設立されましたが、衛生状態などがあまりに酷いところが多かったために1906年(明治39年)ついに屠殺に関しての法律「屠場法(とじょうほう)」の制定がなされました。
屠場法の正式名称は「と畜場法」といい、規制対象となるのは牛、馬、豚、羊です。
この法律により指定されていると畜場以外でも獣畜の解体は規制されることとなりました。
これは感染症の防止や蔓延予防のために制定されています。
設置の許可に関しては都道府県知事の許可が必要です。またこの法律により正当な理由なく農場からの獣畜の搬入を拒むことはできません。
また施設は法的には公的な施設であるという位置付けであるため、施設の使用料や手数料などは都道府県知事の認可が必要となります。
この法律で最も明確に定められた部分としては「衛生管理責任者」を置くことです。
この衛生管理責任者というのは獣医師や畜産学科の学士を持っているものでなければならないという決まりがあります。
しっかりとした知識を持ったものが責任をもって衛生管理を行うことで問題が発生を防ぐのが目的です。
屠殺時における注意と品質管理
馬を屠殺する時に時間が掛かってしまうと、馬肉の品質が著しく低下し、臭みなどが取れない等の問題が発生します。
そのため、利他フーズでは生きた状態の馬がと殺場にくるとすぐに処理を行い、製品化の段階までを一気通貫で処理を行います。
徹底した衛生管理
また利他フーズは衛生管理を徹底しています。
健康な馬のみを製品化します。自社の牧場で飼育のプロが育てた馬の中から健康な状態の馬のみを厳選しています。
処理を行う場所ごとを徹底的にゾーニングし、菌の侵入を防ぎます。
具体的には牧場、屠畜場所、トリミング場所、製品化を行う場所を完全に分けています。
製品化する場所をクリーンルームと呼び、使用する道具(まな板、包丁など)は使う度に洗浄、殺菌、消毒を必ず行います。
クリーンルーム全体も毎日殺菌消毒作業を行っております。
継続的な殺菌により菌が繁殖しづらい環境の整備が出来ています。
クリーンルームに入るときにはマスクと帽子を装着し、専用服に身を包んでからエアシャワーを通って入室します。
一瞬でもクリーンルームを出る場合には同じようにエアシャワーを通ってから再度入室します。
また実際に作業を行うスタッフ一人ひとりの健康チェックを毎日行っております。健康な状態のスタッフだけがクリーンルームで実際に作業を行います。
馬肉の飲食店、販売店
製造段階を経たのち実際にお客様が食されるまでには飲食店や販売店等を介す場合も少なくありません。
食中毒というのは全体の6割が飲食店で発生しているというデータもあるほど飲食店での品質管理というのは非常に難しいものです。
しかし、その食中毒のリスクを下げる方法には「冷凍」という手段があります。
馬肉は法律でさばいてから48時間の冷凍保管の後、発送を行うことが義務付けられているため、食中毒のリスクは他の食材に比べて著しく低いと言えます。
飲食店はそれぞれ衛生管理に対しての意識の高さに差があります。
しかし、発送段階で衛生管理がしやすい状態で卸すことで生産段階で一定の品質を保ってお客様にご提供することができます。
馬肉は48時間冷凍して発送するため、食中毒のリスクが少なくなっています。
そのような意味でも飲食店様も安心してメニューに馬刺しを加えていただいております。
安心してメニューに加えられるという意味でも馬刺しは非常にメリットの多い食材といえます。
食中毒のリスクが高まりやすい夏なども安心して提供することができる数少ない食材の一つが「馬刺し」なのです。